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第16回 バイオアッセイ研究会・日本環境毒性学会合同研究発表会について
第16回バイオアッセイ研究会・日本環境毒性学会合同研究発表会が2010年9月2日(木)、3日(金)の2日間に亘り、茨城県つくば市の文科省研究交流センターで開催された。
参加者150人程度の小規模の学会ではあったが、研究者の熱気が感じられた学会であった。
近年、世界レベルで環境エコロジーに関する関心が高まっており、今後ますますこの様な学会における研究発展が期待されるものと思われた。
学会の内容は、基礎研究的なものから行政的(規制試験)研究まで幅広い分野からの発表があったが、自然環境中に生存する生物を指標・対象とした研究のため様々な要因が関与するため研究結果に対する考察や評価が大変難しい分野と思われた。しかしながら、内容的には水生環境生物学、化学全般(無機・有機、分析、化学反応等)、生物統計学を主体としており、各関連専門分野の研究者らとの積極的共同参画による研究活動が一層望まれる学会と思われた。
また、今回は水生環境有害性・生態影響毒性試験の結果に対する「リスク評価手法」についても発表がなされ、「ヒトと動植物に対する有害性の判定」や、「生活環境動植物への暴露量に基づく影響」のみによる評価からこれらに基づく総合的評価である「リスク評価」への提言(提案)発表がなされた。
発表演題等は、以下の通りであった(すべての発表に関する講演要旨集は、当学会事務局に希望すれば有料頒布)。

1)第1日目
・餌密度が動物プランクトン群集の殺虫剤耐性をコントロールする(信州大学山岳科学総合研究所)
・防菌・防カビ剤の水生生物及び底生生物に対する毒性影響評価(徳島大学・国環研)

消毒石鹸に使用されるトリクロサン(Triclosan)のセスジユスリカに対する毒性試験の結果、48hLC50;26mg/kg、20-dNOEC5.0mg/kgで影響が懸念される。
・徳島県内事業所排水に対するWET試験と放流先河川水におけるリスク評価(徳島大学・・国環研)
・メタボロミクスによる多環芳香族炭化水素のメダカ胚に対する影響評価(鹿児島大学)

生体内の代謝を網羅的に解析する手法であるメタボロミクスを用いて化学物質暴露などによりストレスを受けた結果、生じる代謝物の変化を指標としてストレスに対する生体内の影響を調べた。その結果、ピレン、ジベンゾチオフェン及びフェナントレンのすべてで孵化率の低下や遅延が認められた。
・PFOSの魚類濃縮度について(クレハ分析センター・国環研・岩手県環境保健研究センター)
メダカにおけるPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)30 μg/Lでの濃縮度試験で内蔵部について雌雄での濃縮倍
率に差は認められなかったが、卵に蓄積(BCFss;250)が認められたことから次世代へ引き継がれる可能性が示唆され
た。
・メダカの繁殖条件に関する基礎検討 - 産卵行動における性比及び水温 -(神戸女学院大学)

2)【特別講演】
・身近な水環境 〜 過去・現在・将来(山室 真澄 東京大学教授)
平野部の河川や湖などの身近な水環境は、過去50年の間にその姿が一変した。ここでは湖沼の水生植物に生じたレジー
ムシフトと河川における樹林化に焦点を当て、これにより水質がどの様に変わったのか、それが私たちの生活にどのような弊害を与える可能性があるのか紹介し、被害防止に向けての提案が行われた。
日本人の生活圏の中には周囲の二次林を管理し、生活の一部としていた「里山」という文化がある。しかし、この文化も生活の向上とともに姿を消しつつある。湖の周辺に住み、湖と生活をともにしてきた人々も、同じように湖を「里湖(さとうみ)」として管理しながら、生活の一部に取り入れていた。現在は多くの湖沼で生活排水や化学肥料が流入し、すっかりその姿を変えてはいるが、50年前には水面下に植物(沈水植物)が生い茂り、そこを生活の場とする動物が豊富に生育していた。特に「モク採り」と呼ばれる沈水植物の収穫は肥料としての利用以上に、湖の生態系を管理する役割も果たしていた。
近年、自然再生への市民の関心は高い。身近なところにある木々にはじまり、里山、海浜、そして湖沼。しかし実際にどのような、いつごろの自然を再生すればよいのだろうか。そんな疑問から端を発し、全国の湖で「モク採り」に関わってきた人々から実際に聞き取り調査をおこない、また地元の関係資料を豊富に参照しながら、50年前の人々の暮らしぶりや水面下の世界を考察した。
従来、富栄養化により沈水植物が衰退したとされてきたが、日本では除草剤が沈水植物であるアマモを消滅させ、それ
がきっかけで富栄養化が生じた例があることを報告した(文献4)。
4) Yamamuro, M., Hiratsuka, J., Ishitobi, Y., Hosokawa, S., Nakamura, Y. (2006) Ecosystem shift resulting from loss of eelgrass and other submerged aquatic vegetation in two estuarine lagoons, Lake Nakaumi and Lake Shinji, Japan. Journal of Oceanography, 62, 551-558.

・POPROC(残留性有機汚染物質検討委員会)の最近の活動について(北野 大 明治大学教授)
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の制定の背景、同条約に基づき設立された検討委員会
(POPROC)での化学物質のPOPsとしての認定の考え方、その基準値及び実際の議論及び運用の状況について。また、この条約への国内対応として改正された化学物質審査規制法との関係について詳述された。

3)第2日目
・揮発性物質対応の藻類生長阻害試験法の検討((株)日曹分析センター)
密閉系でCO2の供給不足によるpHの上昇や藻類の生長が促進されることが知られている。
検討の結果、試験液量が多く容器内の上部空間が少ない程、生長率は抑制された。また、密閉系で静置培養した場合にはバラツキが大きかった。48-72hでの生育速度が低下した。
生育速度を72h維持するためには、初期細胞濃度や照度の低減等を被験物質の物理化学的性状に対応した暴露方式や容器内空間の設定が必要である。
・生物微弱発光による藻類に対する化学物質影響の評価(浜松ホトニクス株・国環研)
藻類の光合成活性を反映する生物微弱発光現象を利用した定量的検査方法。
・農薬暴露濃度の時空間的変動を考慮した生態リスク評価手法の開発(国環研)
環境中に放出された化学物質は、大気、水、土壌、底質などの媒体の間を移動あるいは分配される。
本モデル(G-CIMS)は、GIS(地理情報システム)で用いる地理データに基づき、このような多媒体の媒体間の輸送と、大気、河川等での輸送との両方を同時に計算して、媒体間の輸送や分配と地点間の輸送と同時に推定するモデル。除草剤のプレチラクロールでシミュレーションをした結果、一時的に生態系に強い影響が生じている可能性を示唆した。
・複雑な生態系を維持する種間相互作用の役割とそれを撹乱する化学物質の影響(富山県立大学)
・排水の生物影響評価について (1)ニセネコゼミジンコ繁殖阻害試験の品質管理((株)日本紙パルプ研究所)
・プランクトン群集の多様性と生態系機能に及ぼす化学物質:数理モデルを用いた解析(国環研)
・排水の生物影響評価について (3)影響の度合いの判定方法((株)日本紙パルプ研究所)
・芳香族炭化水素のゼブラフィッシュ胚・仔魚毒性試験とヒメダカ急性毒性試験の比較(三菱化学メディエンス国環研)

止水式のDIPB(対水溶解度3.3mg/L)では急性毒性が認められたが半止水式のDCT(対水溶解度;105mg/L)については十分な毒性が認められなかった。
・OECD-TGでのユスリカを用いた毒性試験法の提案 - OECD-TGプログラムにおける合意プロセス -(国環研)
2010年03月OECDは第22回WNT(Workshop of National on Test-guideline)を開催し、ユスリカ全生活史試験法を採択した。
日本は、ユスリカを用いた底質毒性試験(OECDTG218;底質添加法/219;水質添加法)に関して、TG218での試験実績は多数有するが、セスジユスリカの繁殖(交尾、産卵、次世代ふ化観察)に試験実績がないため検討して「新プロジェクト」として提案することを提言。
ドイツは、農薬に限定せず一般化学物質対照とすること。また、ユスリカはミジンコとは異なる昆虫のため新たなガイドラインが必要(デンマークとオランダ賛同)。
・底質評価のためのオヨギミミズ試験(OECD-TG225)の検討と問題点(国環研)
ユスリカを用いた底質毒性試験で使用している人口底質を転用した結果、試験生物が人口底質に侵入出来ないため試験が不成立とのこと。
水生ミミズは栄養塩循環を促進する機能をもつが、農薬の生態影響についてはこれまで考慮されてこなかった。
OECD TG-225で標準種として使用されるオヨギミミズ (Lumbriculus variegatus)は、ヨーロッパで普通種であるが日本では生息が確認されていない。日本の水田に生息するのはユリミミズ (Limnodrilus hoffmeisteri)。

(2010年9月2日、3日開催の第16回バイオアッセイ研究会・日本環境毒性学会合同研究発表会より)

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