小考・小話

製品安全データシート:MSDS(Material Safety Data Sheet)について

1. 緒言
 

 MSDSは、化学製品の性状及び取り扱いに関する情報です。特に、危険有害性のある化学物質や製品等について、安全・適切な取り扱いが確保されるように記述されています。
 MSDSは、当初1970年代欧米の企業や化学工業会で作成され、1990年ILO(国際労働機関)の第170号条約として「職場における化学物質の使用の安全に関する条約」が採択され、国際的に普及し始めました。
 一方、日本では、1992年に日本化学工業協会がMSDSに関する指針を作成・発表し、当時の労働省・厚生省・通商産業省がMSDSに関する告示を策定・発表しました。
 目的は、「化学物質等の危険又は有害な性質等について、事業者、労働者その他の関係者の理解を深めるとともに、化学物質に関する適切な扱いを促進し、もって化学物質等による労働災害の防止に資すること」とし、労働省の告示「化学物質等の危険有害性等についての表示に関する指針(平成4年7月1日、告示60号)」で、「化学物質等で危険又は有害なものとして別表に掲げる性質を有するもの(危険有害化学物質等)を譲渡し、又は提供する者は、提供する相手方に、当該危険有害化学物質等に係る次の事項を記載した文書(化学物質等安全データシート;MSDS)を交付するものとする。」としています。
 1994年にISO(国際標準化機構)で作成されたMSDSに係る国際規格をもとに、2000年JISが制定され、MSDSの提供が法的に義務付けられました。
 1992年の地球環境サミット(アジェンダ21第19章)で「化学品の分類と表示の調和」の項目において、SDS(Safety Data Sheet=MSDS)及びGHS( The Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals:化学品の分類および表示に関する世界調和システム)を確立することが目標とされました。その後、GHSは、国連機関、国際組織で検討され、2003年に国連経済社会理事会で採択されました。
 これに対応し、日本では2005年労働安全衛生法が改正(平成17年11月2日;平成17年法律第108号)され、GHS対応のMSDSが作成、提供されるようになりました。
 GHSの導入で、世界的に統一された様式や絵表示にて、物理化学的危険性、ヒトや環境に対する有害性を分かりやすく示すことができることにより、労働災害防止はもちろん、ヒトの健康や環境の保護を進めることが目的となってきています。

   
2. 規制について
2-1. 国内の関連法規
 

 日本国内におけるMSDS制度に関する法規としては、以下の3法令があります。
 これら3法令で指定する約2000物質についてMSDSの提供が、化学製品を供給する事業者に義務付けられています。

  1. 労働安全衛生法
     労働災害の防止に関する対策を推進することにより、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とした法律です。
     危険物及び有害物に関する規制において、文書の交付等について定めています(第57条の2)。
     労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある物を「通知対象物質」とし、2006年10月の改正で約640物質とその含有量について指定されています。
  2. 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律
    (化管法第14条〜16条)
     PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)制度とMSDS制度を柱とし、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的とした法律です。
     MSDSの対象物質としては、人や生態系への有害性(オゾン層破壊性を含む)を有し、環境中に広く存在するか、 将来的に広く存在する可能性があると認められる物質です。
     2008年11月の改正で以下のように、計562物質が指定されています。
     第一種指定化学物質(特定第一種指定化学物質15物質を含む)462物質
     第二種指定化学物質100物質
  3. 毒物及び劇物取締法
     毒物及び劇物について、製造・輸入・販売等の規制など保健衛生上の見地から必要な取締を行うことを目的とした法律です。
     毒物劇物営業者に対して毒物若しくは劇物を販売し、又は譲与するときに、MSDSの提供を義務付けています(施行令第40条の9、施行規則第13条の11)。
     対象物質は、人や動物が飲んだり、吸い込んだり、皮膚や粘膜に付着した際に、生理的機能に危害を与えるものでその程度の激しいものを毒物、その程度が比較的軽いものを劇物、及びそれらのものを含有する製剤です。
     2009年4月の改正で、約490種類が以下のように分類、指定されています。
     毒物:法別表第一28種類、政令82種類
     特定毒物:法別表第三10種類、政令10種類
     劇物:法別表第二94種類、政令277種類
   
2-2. 海外の関連法規
 

 海外におけるMSDS制度への対応は、以下の通りです。

 米国は、OSHA(労働省労働安全衛生局Occupational Safety & Health Administration)が危険有害性周知基準 (HCS: Hazard Communication Standard)にてMSDSの提供を義務づけています。有害物質規制法(TSCA : Toxic Substances Control Act)の届出書式にMSDSが含まれています。
 欧州では、欧州委員会が安全性データシートに関する委員会指令(91/155/EEC、最新版:2001/58/EC)にて、SDS
(Safety Data Sheet)の提供を義務付けています。SDSは、MSDSに当たるものです。また、EUは2007年には、新しい化学物質管理体制として、REACH 規制(Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)をスタートさせました。REACHは、欧州に於いて農薬や医薬品を除く化学物質の総合的な登録・評価・認可・制限を行う際に、化学物質を扱うすべての企業が情報を共有するために、MSDSが情報伝達手段の一つとなります。
 その他、カナダ(1989年)、オーストラリア(1994年)、韓国(1996年)など、様々な国でも、MSDS制度が法制化されています。
 これらは、各国によって、対象物質などの相違はありますが、ISO11014-1 Safety data sheet for chemical products(ICS(International Classification for Standards) : Products of the chemical industry in general)で国際規格化された書式があり、GHSに対応した内容となってきています。

   
3. MSDS記載内容について
 

 MSDSに記載する内容は、JIS Z 7250-2005(ISO11014-1を元に作成、改正)にて、次の16項目についてこの順序で記載するよう定義されています。

(1) 製品及び会社情報
  製品名、MSDSを提供する事業者の名称、住所、担当者の連絡先等
(2) 危険有害性の要約
  GHS分類、ラベル要素、GHS分類にない全体的な危険有害性(例:粉塵爆発危険性)
(3) 組成及び成分情報
  含有する対象化学物質の名称、政令上の号番号、種類、含有率(有効数字2けた)
(4) 応急処置、(5) 火災時の措置、(6) 漏出時の措置、(7) 取り扱い及び保管上の注意
(8) 暴露防止及び保護措置
  労働安全衛生法で定められている作業環境許容濃度等
(9) 物理的及び化学的性質、(10) 安定性及び反応性
(11) 有害性情報、(12) 環境影響情報
  (2)で示したGHS分類の根拠としたデータなど
(13) 廃棄上の注意、(14) 輸送上の注意、(15) 適用法令
(16) (1)〜(15)のほかMSDSを提供する事業者が必要と認める事項

   
4.

企業に対する重要性

 

 化学物質管理に関わる情報の公開・共有は、国内のみならず国際的にも進められています。そのための情報伝達
手段としてMSDSの重要性は増しています。

 MSDS作成の際に企業が行う遵守事項や問題点は、次のようなことがあげられます。

  1. 製品の成分・含有量(組成)の特定
  2. 有害性情報:既存MSDS、GHS分類、適用法令など
  3. 安全性情報調査:混合物の場合、成分ごとのデータでは不十分な場合、製品としてのデータが必要となることもあります。
     化学物質のリスク評価が、国・地方自治体、研究機関などで進められ、公開されています。企業は、信頼性のある情報と自ら扱う製品についての知見を照らし合わせて、MSDSを作成することが求められています。また、新たな試験をすることは、慎重な判断が求められます。REACHでは、動物愛護とコスト削減の観点から、できる限り試験を行わない方針を打ち出しています。
  4. 秘密保持に関わる取り扱い業者との契約
     特許などで守られているように秘密保持は、企業の優位性を保つため重要なことですが、MSDSは公開資料です。記載できないことは、秘密保持契約を締結した後、別紙にて情報を提供する等の方法で対応が可能です。
  5. 必要に応じ、MSDS以外の手段による情報提供
     MSDSでは要求されていない項目や製品でも、供給事業者が「有害性あり」と判断した場合、他の方法で情報提供をしていくことが、重要と思われます。
     現状のMSDS制度では、REACHで対象となっている成形品や、対象物質の濃度が0.1%以上には対応できていません。また、化学物質が加工され、製品となり、廃棄されるまでの間、MSDS提供の対象外とされている物も多くあります。これらについても、MSDS以外の方法で、情報が提供されることも重要と考えられます。
   
5. まとめ
 

 MSDSの情報にもとづいた化学製品の使用をすることで、取り扱い事業者は、安全で人や環境への影響も最小限にとどめることができます。さらに、用途や新たな知見について、供給事業者と取り扱い事業者の間で情報交換がなされ、MSDSの内容をより充実させ、化学製品を扱う企業全体での化学物質管理を進めることが期待されています。

 



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株式会社 イ-・エス・サポ-ト





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